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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2355号 判決 1975年10月31日

控訴人(附帯被控訴人) 中浜好太郎

控訴人(附帯被控訴人) 藤田義衛

右両名訴訟代理人弁護士 中村喜一

被控訴人(附帯控訴人) 伴道義

右訴訟代理人弁護士 石井錦樹

同 森虎男

右訴訟復代理人弁護士 石井銀弥

主文

一、原判決を次のとおり変更する。控訴人らは被控訴人に対し、原判決別紙目録一記載の各株券を引渡せ。

控訴人らは被控訴人に対し、各一二四万〇三二三円及び内金五〇万円に対する昭和四一年三月二五日から、内金七四万〇三二三円に対する昭和四七年四月一六日から各完済まで、年五分の金員を支払え。

控訴人中浜好太郎は被控訴人に対し、原判決別紙目録二の(四)の1記載の電話加入権につき、被控訴人名義に変更申請手続をせよ。

被控訴人のその余の請求(当審における請求を含め)はこれを棄却する。

二、訴訟費用は(附帯控訴を含め)第一、二審とも控訴人らの負担とする。

三、この判決の第一項のうち、金員の支払を命ずる部分は、被控訴人が控訴人らに対し、各四〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴人ら代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき、附帯控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人代理人は控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として「控訴人らは各自被控訴人に対し一四八万〇六四六円及びこれに対する昭和四七年四月一六日から完済まで、年五分の金員を支払え。附帯控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり附加訂正するほかは、原判示事実摘示と同一であるからこれを引用する(但し原判決三枚目表一〇行目及び同六枚目表一〇行目の各「株券」とあるを各「株式」、同五枚目裏六行目の「昭和四一年三月二四日」とあるを「昭和四一年三月二五日」、同別紙目録一中(二)の株式の記号番号を「はのC〇一二一ないし〇一五三」と各訂正する)。

(控訴人らの主張)

(一)仮に被控訴人主張の金銭の授受が、控訴人藤田が同中浜の斡旋で東京昼夜信用組合に対してした手形割引によるものでなく、金銭消費貸借契約によるものであるとしても、右契約の債務者は右信用組合であって、被控訴人ではない。

(二)原判決別紙目録一記載の株式(以下本件株式という)は、東京昼夜信用組合が控訴人中浜の斡旋で、控訴人藤田から融資を受けたことにより、株式会社鬼怒川温泉ゴルフ倶楽部が右信用組合から融資を受けることができたことに対する報酬として、右ゴルフ倶楽部が控訴人中浜に対し、株券の表面に同控訴人を株主と表示して、無償交付したものである。従って本件株式及び株券は発行当初から控訴人中浜に帰属し、控訴人らが被控訴人に対し有する金銭債権の担保として、被控訴人から受取ったものではない。

(三)原判決別紙目録二記載の各電話加入権は、もと被控訴人の所有であったが、昭和三八年一〇月三〇日東京昼夜信用組合が、監督官庁である東京都から業務停止命令を受けて、その業務を停止した後は、右電話加入権の実質的所有権は右信用組合に移転し、控訴人藤田は同人の右信用組合に対する手形金債権の担保として右信用組合からその譲渡を受け、その後右信用組合の申出により、右電話加入権のうち同目録(一)ないし(三)及び(四)の2を第三者に譲渡処分し、(四)の1を控訴人中浜の名義として、控訴人藤田の右債権の一部の弁済に充当した。

(四)被控訴人代理人主張の後記(二)の事実を否認する。

(被控訴人の主張)

(一)控訴人ら代理人主張の右事実((一)ないし(三))のうち、原判決別紙目録二記載の電話加入権中(四)の1の電話加入権を控訴人中浜の名義とし、その余の電話加入権を第三者に譲渡したことは認めるが、その余は否認する。本件株式の発行当初の株主は被控訴人であったが、控訴人中浜の要請により、被控訴人の控訴人らに対する債務の担保として右株式を提供することになったところ、右株式は東武鉄道株式会社に担保として提供していたため、予備株券を利用し、株券の表面の株主名を控訴人中浜と記載して新たに作成した本件株券を同人に交付し、東武鉄道に提供していた株券は、その後廃棄することにより、控訴人らに交付した本件株券を正当なものとしたから、被控訴人の株式を控訴人らに譲渡したことになったものである。

(二)被控訴人は控訴人らに対し、昭和四七年四月一五日現在において、本件債務の弁済として一四八万〇六四六円を超過支払し、従って控訴人らは一四八万〇六四六円を不当に利得し、被控訴人は同額の損害を受けている。よって被控訴人は控訴人らに対し不当利得金一四八万〇六四六円及びこれに対する控訴人らが悪意となった日の翌日である昭和四七年四月一六日から完済まで、年五分の法定利息の支払を求める。

(証拠)<省略>。

理由

一、当裁判所は当審における弁論及び証拠調の結果を斟酌し、さらに審究した結果、被控訴人の本訴請求(当審における請求を含め)は、主文第一項認容の限度において正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきものと判断するものであり、その理由は次のとおり附加訂正するほかは、原判決の理由と同一であるからこれを引用する。

(一)原判決八枚目裏七行目及び同一二枚目表一行目の各「甲第一号証の一ないし一二八」とあるを各「甲第一号証の一ないし一八四」、同八枚目裏末行の「新木英治」とあるを「同新木英治」、同一一枚目裏五行目、同六行目及び同一四枚目表一行目の各「株券」とあるを各「株式」、同一一枚目裏五行目の「これ」とあるを「その株券」と各訂正し、同一四枚目表三行目の「連帯して」とあるを削除し、同裏九行目の「昭和四一年三月二四日」とあるを「昭和四一年三月二五日」、同一〇行目の「被告は」から同一五枚目表一行目の「三月二四日」までを「控訴人らは被控訴人に対し、右損害金のうち各五〇万円(不可分債務が履行不能となった場合の損害賠償債務は分割債務となり、その割合は特段の事情のない以上平等と解する)及びこれに対する昭和四一年三月二五日」と各訂正する。

(二)<証拠>によれば、被控訴人は昭和二七年一月以降控訴人らから継続して融資を受け、これを被控訴人が「日光本店」の名称で営んでいた金融業の資金として運用していたが、その融資については利息を天引し、その都度天引前の金額を額面とする約束手形を差入れ、毎月利息を支払うと同時に手形を書替える形式がとられていたこと、昭和二九年一二月被控訴人が東京昼夜信用組合を設立してその理事長となり、さらに昭和三三年一二月株式会社鬼怒川温泉ゴルフ倶楽部を設立し、被控訴人がその代表取締役社長に就任してからも、控訴人らの被控訴人に対する融資は依然として右と同一の形式で行われていたこと、「日光本店」の使用人椎名よう子が控訴人らから融資を受ける都度記入した「明細表」(甲第一号証の一ないし一八四)の記載は、被控訴人が右信用組合の理事長となり、また右ゴルフ倶楽部の代表取締役社長に就任した前後を通じ、全く同一形式で行われ、その間に何らの相違がみられないこと、右信用組合は右信用組合が控訴人らから金員を借入れ、また同人らとの間において、右信用組合の所有物件に抵当権設定契約を締結することとして、理事会を開いたことは一度もないこと、従って控訴人らから融資を受けたのは右信用組合であることを証する右甲号証類似の書面の存在する形跡のないことが認められる。右認定事実によると、控訴人らの右融資は、控訴人藤田が同中浜の斡旋で東京昼夜信用組合に対してした手形割引によるものではなく、手形貸付による金銭消費貸借契約に基づくものであり、その債務者は被控訴人個人であると認めるのが相当である。もっとも当審証人中浜卓弥、同渡辺虎雄の各証言によると、株式会社鬼怒川温泉ゴルフ倶楽部の使用人が控訴人藤田の自宅に赴き、同人に対し利息や手形を届けたことが認められるけれども、前掲証人椎名よう子、同新木英治の各証言それに原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は控訴人らから借入れた金員を右ゴルフ倶楽部の事業資金につぎ込んでいたこと、そして被控訴人はそのころ右ゴルフ倶楽部の代表取締役社長でもあったから、右ゴルフ倶楽部の使用人が直接控訴人藤田の自宅に赴き、借入金の利息を支払う等の行為に及んだとしても、何ら不自然ではないことが認められるので、右ゴルフ倶楽部の使用人に右のような行為があったからといって、前認定を妨げない。

さらに<証拠>によると、被控訴人が控訴人らから金員を借入れる際に振出す約束手形の振出人は、当初は被控訴人一人であったが、後には伴久守、伴チサ、株式会社鬼怒川温泉ゴルフ倶楽部のほか、東京昼夜信用組合も振出人の一人に加えられ、また昭和三三年五月以降は右信用組合は金銭消費貸借契約の連帯債務者の一人となり、またその所有物件の担保提供者となって控訴人藤田との間において右物件に抵当権設定契約を締結したことになっていることが認められるが、既に述べたように東京昼夜信用組合が控訴人らから金員を借用し、また同人らとの間において、右信用組合の所有物件に抵当権設定契約を締結することになって、理事会を開きその決議をへたことは一度もなく、前掲証人今津友利、同新木英治の各証言によれば、被控訴人はそのころ右信用組合の代表理事でもあったため、同人が右信用組合の理事会に図ることなく、勝手に右信用組合を本件金銭消費貸借契約の連帯債務者の一人に加え、また同信用組合の所有物件に抵当権設定契約をする等の行為に及んだことが認められるので、本件金銭消費貸借契約の債務者は前認定のように被控訴人であると認めるのが相当である。

(三)<証拠>によると、本件株券の表面に控訴人中浜が株主として記載されていることが認められ、このことからすると、控訴人らの主張するように本件株式及び株券は発行当初から控訴人中浜に帰属するごとき観を呈している(わが国の実務の慣行によると、例外はあるが、株式を引受けて株主となった者の氏名は株券の表面に記載し、株式を譲受けて名義書換を受けた株主の氏名は株券の裏面に記載するのがその通例である)。

ところで被控訴人は、昭和三五年七月二〇日控訴人らの求めに応じ、同人らとの間において、当時約定どおりに計算すると未完済の状態にあった原判決別紙付表番号2ないし4、36、46、49、51、59、62ないし67、69、71ないし73、75ないし86、88、90、95ないし97、99ないし101の金銭消費貸借契約の債務の担保として、すでに提供していた担保物件に附加して、株式会社鬼怒川温泉ゴルフ倶楽部の株式を譲渡する旨を約したことは原判決の判示するところであるが、前掲<証拠>によると、被控訴人が控訴人らに譲渡しようとする株式(五万円株株券二〇〇枚、記号ろのB〇二五一ないし〇二六二、同〇二七三ないし〇二九四、同〇九〇二ないし〇九六八、同一〇三一ないし一〇九六、同一〇九八ないし一一三〇)は、株主名が株式会社鬼怒川温泉ゴルフ倶楽部の従業員等になっているが、その実質上の株主は被控訴人であって、右株式は当時東武鉄道株式会社に担保として提供していたため、予備株券を利用してその表面の株主名を控訴人中浜と記載し、これを控訴人らに交付したこと、そして控訴人らに交付した右株券を正当化するために新たに株式台帳(乙第四五号証の一ないし三五)を作成し、東武鉄道に担保として提供していた株券を廃棄し、いうならば株券の再発行を行ったこと(株券の再発行の場合、新株券の番号は必ずしも旧株券の番号と同一であることを要しない)、控訴人中浜は右株式の取得につき株金を払込んでいないことが認められ、右認定に反する当審証人中浜卓弥、同鈴木新兵衛の各証言、原審及び当審における控訴人ら本人尋問の結果は措信しない。

しかるところ右認定事実によれば、本件株式は控訴人中浜が株券の表面に株主として記載されているけれども、もと被控訴人に帰属していたものを、前記金銭消費貸借契約の債務の担保として、被控訴人が控訴人らに譲渡し、それに伴い本件株券も、被控訴人から控訴人らに交付されたものと認めるのが相当である。

そうすると本件株式は、控訴人中浜が株式会社鬼怒川温泉ゴルフ倶楽部から、無償交付を受けたものであるという控訴人らの主張は採用できない。

(四)次に本件電話加入権は、昭和三八年一〇月三〇日東京昼夜信用組合が監督官庁である東京都から業務停止命令を受けて、その業務を停止した後は、右電話加入権の実質的所有権は、被控訴人から右信用組合に移転したこと、そして控訴人藤田は同人の右信用組合に対する債権の担保として、右電話加入権の譲渡を受けたことは、本件全証拠によってもこれを認めることができない。すると右事実を前提とし、控訴人藤田は右信用組合の申出に基づき、本件電話加入権を第三者に譲渡処分する等して、控訴人藤田の右信用組合に対する手形金債権の弁済に充当した旨の控訴人らの主張も採用できない。

(五)被控訴人は控訴人らから連帯して、前記付表の各「支払日」欄記載の日に各「借入元金残元金」欄記載の金員を、利息は各「利率月」欄記載の利率でこれを前払とする約定のもとに、各「借入元金残元金」欄記載の天引額を各天引の上で借入れたこと、そして被控訴人は控訴人らに対し同付表の各「支払日」欄記載の日に、各「支払利息金額」欄及び各「返済額」欄記載のとおり利息及び元金の弁済をしたこと、昭和二九年六月一五日以降に締結された契約については、現行利息制限法が適用されるところ、右同日以降締結された右金銭消費貸借契約における右約定利息はいずれも同法所定の制限利息を超過するものであること、しかも同法の適用される契約につき、債務者が同法所定の制限を超過する利息、損害金を任意に支払ったときは、右制限を超過する部分は、民法第四九一条により残元本に充当されるところ、右充当関係は同付表の各「法定元金充当額」欄記載のとおりであることは、原判決の判示するところであり、その結果超過支払額は、同付表の各「返済余剰金及び支払利息余剰金合計」欄記載のとおりであって、その合計総額は、昭和四七年四月一五日現在において、少くとも被控訴人の請求額一四八万〇六四六円を下らないことは計数上明らかである。

しかるところこのように債務者が、利息制限法所定の制限を超過して、利息、損害金を元本とともに任意に支払った場合、元利合計額を超過する支払額は債務者において債権者に対し、不当利得としてその返還を請求することができるものと解するのが相当である。

そうすると、控訴人らは被控訴人から一四八万〇六四六円を不当に利得し、被控訴人は同額の損害を受けたことになるところ、控訴人らが被控訴人から超過支払を受けた連帯債権の債権者相互の内部的割合は、特約なき限り平等と認められるので、特約のない本件における控訴人らの右不当利得に対する割合は平等であると認めるを相当とする。

されば控訴人らは被控訴人に対し、各不当利得金七四万〇三二三円及びこれに対する控訴人らが悪意となった日である昭和四七年四月一五日(前記付表記載の約定利息が現行利息制限法所定の制限利息を超過するものであることは明らかであり、従って控訴人らは遅くとも被控訴人主張の右同日当時、悪意であったものと認める)の翌日である同月一六日から完済まで、年五分の法定利息を支払う義務があり、その余の義務のないことが明らかである。

二、よって本件控訴に基づき、原判決を右の趣旨に従って変更し、附帯控訴に基づき、当審における請求を右の限度で認容してその余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を適用し、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 田畑常彦 大前和俊)

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